心が通うとは?

「源氏物語」は最古の文学と言われる、平安時代の小説です。光源氏という、美貌、才能、地位すべてを兼ね備えた主人公が、さまざまな女性と出会い、恋を成就させたり、時には失意を味わったりします。

すべてを兼ね備えたと言いましたが、それは他者からの見方で、実は源氏には大きな喪失があります。生母の桐壺を出生後すぐに亡くし、母親を知らないまま成長したのです。生母を求める源氏の気持ちは、生母に似ていると言われる義母の藤壺に対する強い執着や行動となって行きます。

私は源氏物語の一つのテーマとして、この源氏の抱える喪失と、それを癒そうと繰り返される女性たちとの出会いがあるように思います。

源氏は、紫の上という理想の女性を手に入れますが、その後も様々な女性たちと交際し続けます。紫の上は苦しみ、出家したいと願いますが、源氏は紫の上を褒めたたえるばかりで、紫の上の気持ちに気付こうとせず出家を許しません。源氏は自分の喪失にとらわれ、相手の気持ちが見えないのです。紫の上を褒めたたえるのではなく、自分を省みて深く謝らないといけない場面です。

その後、紫の上は病気になり亡くなります。心が通じない関係に絶望し、うつ的な状態となって病気になったのではないかと思われます。

 

私たちの中に傷ついた子供がいる場合(つまり、喪失やトラウマを抱えている場合)その子供にキチンと向き合って癒していかないと、傷ついた子供はいつまでも泣き叫び人生を支配します。子供と心通うまで時間をかけて向き合い、寂しく孤独だった子供時代を癒していくことが必要なのです。