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物語の意味

私達は幼いころから、さまざまの物語を聞いたり見たりして育ちます。おとぎ話から始まり、大好きなアニメの物語、家族の苦楽の歴史、人の出会いや別れを描く映画など。

このような物語の中で自分と重ねて、泣いたり笑ったり怒ったり悲しんだりします。自分の分身のような主人公が活躍するのはわくわくしますが、不幸になるのは辛いものです。

このような体験をしながら私達は、自分なりの人生の物語を作っていきます。現実を生きながら、どこかで自分の物語を生きようとして、自分を励ましたり規制したりするのです。

ところが人間関係や社会関係に恵まれず、自分を中心とした人生の物語を上手く作れない場合、物語の世界が自分の世界になってしまうことがあります。空想と現実が逆転したような状況で、ますます現実から遠ざかってしまいがちです。

さて、人間にとって一番大事な物語と言えば、自分と両親との物語です。どのような両親から、どのような思いを受けて生まれたかが、人生の出発点となる大事な物語です。色々な事情で自分の親の存在が分からない場合、どうしても親に会ってみたいと願うのは、空白になっているこの物語を知らないと、自分の人生の意味が分からないという思いがあるからでしょう。人間にとって、根源的で切実な欲求なのです。

うつ状態になると、それまでの自分の物語がいったん崩れます。何とか元の物語に戻そうと懸命に頑張るのですが、ますます物語が崩れ苦しくなります。その物語にかなり無理があったり(本音を言わず、人に合わせることを優先し、自分を抑えつけている物語など)、また、いじめなどで回りから物語を壊される場合もあります。

 

うつは苦しい体験ですが、自分を主人公に物語を作り直す機会と言えます。苦しさを経て、今度こそ自分がのびのびと主人公でいられる物語を作りたいものです。