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磁石のような自分

「自分の意見は」、「自分の役割は」など、私達はよく自分という言葉で他者との違いを表現しようとします。「自らの分」つまり己の領域を表す言葉として、自分はよく使われる言葉です。

しかし、この言葉が表す境界は、けっこうあいまいなものです。

自分の意見と言っても、周囲やマスコミの見解など、自然と耳に入るものがそのまま自分の意見となってしまうことは多いものです。自分でも納得したつもりになっていますが、周囲の流れが変わるとまた変化します。

自分とは磁石のように、感情が周囲の感情を引き寄せ、ふくれ上がったり、しぼんだりするものです。しかし、これを繰り返すうちに、自分の見解が明確になり、自分らしさが形成され、自ら発信することができるようになります。

ところが、この自分に不安があり、自己否定的な気持ちが強い時、周囲の不安を次々に引き寄せ、ふくれ上がって行きます。家族など、周囲の不安も自分の不安のように感じられ、さらに不安になってふくれ上がるという悪循環です。

そこで、引き寄せた不安を解決することで何とか不安を鎮めようとしますが、自分の問題ではないので、根本的には解決しません。何とか解決してコントロールしなければと焦り、さらに不安が強くなります。

こうして、自分の問題と人の問題の区別がつかないまま、磁石は次々と引きつけ続けます。もはや自分の本当の欲求は何か、分からなくなり、ただ不安が増すばかりです。

このような情況では、まず自分自身の不安の正体を知ることが必要です。これは、一緒に向き合ってくれる治療者や協力者が必要です。

不安には、周囲から押し付けられた不安もあり、喪失感から生じた不安もあり様々ですが、自分の不安を発見できたら懸命に向き合ってやりましょう。それができたら次に、不安の磁石にやたらくっついたたくさんの荷物を、一つ一つ切り離して行きましょう。

 

荷物が減ると、少しずつ自分の欲求が見えて来ます。これからが、自分の人生の始まりです。