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一体感と境界線

赤ちゃんは、満面の笑顔で周囲を魅了します。世界のすべてと一体になったような笑顔、それは見ている私達にも、何の不安もない世界が無限に広がるような幸福感をもたらします。この時、赤ちゃんには自分と周囲の区別はなく、ただただ世界と自分が一体になった幸せな感覚を味わっているのでしょう。

人が生きて行く根底には、この感覚があることが必要です。

逆に、人と自分の違いを認識し境界線を引くことも、自分を守り人を守って生きて行くために必要です。

さらに、具体的に考えてみましょう。

同じ目的を持って周囲と励まし合い、共感し合う時など、自我が大きく広がるような一体感を感じます。

すぐれた音楽や美術、自然などに接したり、旅行をしたりする時、自分の中から思いがけない感情が湧き起こり、世界との一体感を味わうことがあります。

好きなスポーツで体を動かした時の心身が高揚する感覚、風呂にゆっくり浸かった時に、身体がほどけて広がるような感覚など、日常の中で私達は、自我が広がり世界と一体になっていく感覚を、繰り返し味わっています。

ともすれば自分を抑えることの多い日常の中で、時折訪れるこのような一体感は私達を癒してくれ、生きる喜びを与えてくれます。

人を動かす大きなエネルギーは感情ですが、感情は自他の境界を越えた共感となって広がりやすいものです。喜び、怒り、悲しみなどは、特に共感が起こりやすいものですが、あくまで誰の感情なのか境界線を引いて確認することが必要です。この境界線が弱いと、いつも人を巻き込み、巻き込まれということが起こりがちです。まだ境界のできていない赤ちゃんがその典型で、赤ちゃんは周囲を巻き込まないと生きて行けない存在なのです。

私達は成長するにつれ、周囲と境界線を引きながら、時に一体感を味わう、この二つを日常的に繰り返す存在となります。

しかし、境界線を引き過ぎると周囲から孤立したり、一体感を求め過ぎると何かに依存するようになったり、なかなか難しいものです。

 

人生で一番大切で努力が必要なのは、この二つのバランスを上手く取ることかも知れません。