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怒らない指導

 

 元全日本代表のバレーボール選手だった益子直美さんが、「怒らない指導」を提唱しています。

 

実際に指導者や子供達にそれを広める実践活動として「益子杯」などの大会を開き、指導者は子供達を怒ってはいけないルールで試合を行います。しかし指導者達は、ついいつもの口調で「それではダメだ!」とか「もっとこうしろ」など言ってしまい、それが怒っているとは自覚できないようです。指導者達も、そのまた指導者から同じように言われてきて、その方法が当たり前と思っているのでしょう。

 

しかし益子さんはそれに待ったをかけて指導者達に指摘し、子供達を集めます。厳しい試合の状況に立ち向かうには、どのようなプレーをしたら良いか子供達に考えさせ、皆の気持ちがまとまったところで試合を再開します。厳しい指示やダメ出しで動くのではなく、自分達の考えでプレーするため、子供達は生き生きと力を発揮し、結果的に流れを変えていました。

 

益子さんが選手の頃は、スポーツに必要なのは厳しい練習と根性で、指導者も厳しく指摘し叱咤激励していた時代でした。

 

才能と努力で代表となった益子さんですが、学生時代は「ほめられたことがない」「自信がない」「考えることをしない」「チャレンジしない」「目立ちたくない」「意見を言えない」「楽しくない」という気持ちや考えを抱えていたそうです。このようなネガティブ・マインドで練習を続けるのはさぞ辛かったと思いますが、当時はそれが当たり前と捉えていた時代だったのでしょう。

 

大人と子供を比較すると、一見、圧倒的に大人が優位に思えます。体格的にも経済的にも知識、経験においても。

 

しかし、私達が子供の頃を思い出せば分かるように、日々を生きるために懸命に考え努力しているという点では、大人も子供も変わりありません。だから大人にとっては正しいことでも、それを怒った口調で強く言われると、子供には自分を否定されたように感じられます。子供も懸命に努力しているのに、それが認められてないからです。

 

考えてみれば試合の主役は子供達で、大人は子供達が日頃の力を出せるよう選手起用を考えたり、戦い方をアドバイスしたり励ましたりくらいしかできないのです。怒った口調で指示を出し選手を思い通り動かそうとするのは、指導者があまりにも責任を抱え込んでしまっているとも言えます。

 

よく考えれば、私たちも自分に対してこのようなことをしていないでしょうか?「かくあらねばならない」という価値観を押し付けて自分を否定するようなことです。例えば「偏差値が高くなければダメだ」「やせてなければダメだ」など。そのような価値観を押し付けて自分を否定してしまうと、ダメな自分を見せないよう防衛して本音が言えなかったり、意欲をなくしたりします。

 

もともと自分を認めてもらった経験が乏しかったり、否定されることが多かったりすると、さらに自分を否定してしまいがちです。大切なのは周囲との比較で自分を見るのではなく、今ここで懸命に生きようとしている自分を認めてやることです。自分に対する「怒らない指導」ですね。

 

懸命に生きている自分を実感し認めるには、良い出会いも必要です。子供達と指導者達を見守っている益子さんのように、