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希薄な自分

 

 カウンセリングでお会いする皆様の中には、現在の状態を「自分が希薄になったような」と語る方もいます。いわゆるうつ状態で、具体的には、意欲が低下し、物事が決められない、眠ることもままならないという辛い状態です。自分はもはやエネルギーの乏しく、思い通りにならない厄介者なのです。このような自分を抱えて行くのは、大きな負担で、自分から逃げ出したくなります。具体的な人間関係や経済的な問題を抱え、ままならない状況にいるときは、解決の援助を周囲に求めることもできます。しかし、自分という存在が希薄になり厄介者になっているのは、どう援助してもらったらいいのか分かりにくいですね。「気の持ちようだ」とか言われかねないですし。

 

自分が希薄になった場合、よく考えると、もともと自分に自信がなく、自分を否定する気持ちがどこかにあったりします。この気持ちがあると、自分より周囲を優先してしまい、他者に評価されることで安心しようとします。また、自信のない自分はダメだという気持ちが強いので、それを周囲に悟られないよう、努力して完璧を目指します。しかし、いくら努力して成果をあげても、安心することができません。自分に自信がない不安な気持ちに向き合ってやらないと、いつまでも安心できないのです。

 

ところで、この気持ちはいつ自分の中にできたのでしょう。たとえば幼少時、まだ自分で状況をコントロールできない時期を考えてみましょう。その時、安心よりも不安の多い状況(両親の不和など)にいると、不安な状況に対処することだけで精一杯となり、自分の気持ちは抑え込んでしまいます。抑え込んだ不安な気持ちは、解決されないまま残っているのです。何か困難な状況になった時、この不安や自信のなさが出て来て、状況をさらに困難に感じてしまいます。そういう状況が繰り返されているうちに、自分という存在が輪郭の乏しい希薄なものに感じられてくるのです。

 

自分の存在の感じ方は、このように自分の抱える状況にどう対処できるか、そして自分とどう向き合うかで変化します。状況から逃げていると、不安や焦りはさらに強くなり自分が希薄になって行きます。でも、逃げざるを得ない時もありますね。逃げるという対処法と思えればいいのですが、難しいところです。また所属している組織や仕事=自分の存在だと思って過ごしていると、組織や仕事を失くした時に自分が希薄になってしまいます。例えば定年退職後、自分を見失うようなことが起こるかも知れません。

 

願わくば、自分を周囲に委ねつつ、一方で、日々自分と向き合えるといいですね。不安な気持ちがあったとしても、自分を決して否定しないで。

 

ところで、これまで私は「自分が減る」という表現をしてきましたが、今回は「自分が希薄」という表現を使ってみました。このように、自分の存在をどう感じるかは、人それぞれの表現があります。その中で自分なりの表現を発見していくことが、自分の存在に向き合う第一歩かもしれません。