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オレオレ詐欺

 

 現代の犯罪と言えば、やはり気になるのが「オレオレ詐欺」です。この犯罪の特徴は何と言っても、電話を使って家族に成りすまし、家族を思う気持ちを利用することでしょう。なぜ、最も親しいはずの子供や孫の声がわからないのか、不思議だと言われてきました。

 

しかし、オレオレとのっけから言われれば、こんな表現をするのは普通身内しかいないわけです。さらに切羽詰まった声で、事故を起こした、金を使い込んだなどの窮状を訴えられると、何とかしなければと身内を思う気持ちが湧きます。

 

人の心には、それまでの人との間で体験した様々な感情がたまっています。親や家族に愛された体験は、愛情として心に存在し、その感情を外に向けることで、他の人との人間関係を作って行きます。オレオレ詐欺は、被害者にこの愛情があるからこそ、成り立つのです。  心にたまっている感情には、怒りや不安などのネガティブな感情の場合もあります。この時は、相手に共感する余裕はありませんから、電話をかけてきた、事故や使い込みをしたと語る相手を責め、詐欺は成り立たないかもしれません。

 

だます側は、リーダー、電話係、見張り役、受取役(受け子)などキチンと役割分担し、ノルマを課したりと、まるで会社組織のようだと言われています。しかも仕事の目的を明確に示し、“社員”の士気を高めようとします。

 

TVの特集番組によれば、ある詐欺グループでは、余った金を持つ高齢者から社会に金を還流させるというスローガンを“社員”に叩き込んでいました。現在の格差社会に対して、富の還元と言いたいのでしょうが、富を還元させどのような社会を作るのかというビジョンはないようです。

 

電話でオレオレと言って、相手を信じさせる役の人には、どんな感情がたまっているのでしょう。十分な愛情に恵まれず、寂しさ、怒り、悲しみなどを抱えているとしたらどうでしょう。このような感情が、さらに電話をかけた相手の愛情を引き寄せるかもしれません。また詐欺グループも、このような感情を抱えた人々をまるで家族のような親密さで取り込んで、犯罪者に仕立てて行くことも多いでしょう。

 

オレオレ詐欺は、このように現代社会の縮図のような要素を持ち、それぞれの抱えている感情が底流に大きく存在しています。対岸の火事と思わず、自分の抱えている感情を振り返ってみることも大事なのではないでしょうか。