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分断の時代の心

 現代は分断の時代と言われています。自由競争で広がった格差や対立の結果、他者を受け容れるより、自分の利益をまず考える「自国第一主義」のような風潮が広がっています。家族制度も変わり、家族を作って守るより個人を中心とする、ある意味では多様性のある時代となりました。

 

この時代を生きる私たちの心について、考えてみましょう。

 

私たちの心は周囲との間で、投影、取入れという作用を繰り返してできていきます。心の中にあるのは、感情、思考、そして記憶です。もともと持っている原始的な感情には恐れ、不安、怒り、寂しさ、喜びなどがあり、呼吸するようにそれらを投影(周囲に映し出す)したり、取り入れたりします。その中で愛情、慈しみ、嫉妬、恨みなどの感情やそれに基づいた思考が育ちます。この感情や思考と日々の体験が、記憶を作っていくのです。

 

心は周囲との関わりでできるので、周囲の人間関係、社会、時代を反映します。周囲との間で健康な投影、取入れができるのが、心にとって良い環境です。分断の時代は、協調よりも互いの違いが前面に出るため、投影や取入れをするには難しい環境です。また多様性は個人にとって大事なことですが、一人一人が自分に向き合うという厳しさがあり、孤独感は強くなります。

 

分断状況では、相手に対する思い込みや偏見が強くなります。パワハラやいじめなどの問題はこの分断から起こり、相手を理解することなく、一方が他方を力で抑えつけいきます。

 

うつ状態は、このような心を抑えつけた状態が長く続いた結果起こります。他者に抑えつけられるだけでなく、分断状況を取り入れて、自分で自分の心を抑えつけるのです。

 

多くの心の病は、このような危機的な状況の中で起こってきます。不安障害、うつ、摂食障害、アルコールやギャンブル、インターネットなどへの依存など、様々な様相を呈するのが心の病です。私たちは家庭、学校、社会の分断が健康な投影、取入れを阻んでないか、個人の心を圧迫するものになってないか、考える必要があります。

 

人の心はつながりを求めるものです。呼吸のように大切な投影、取入れは、人とつながっているからできることです。インターネットがこれだけ発展したのは、このつながりを求める心があるからこそでしょう。そして分断の時代だからこそ、急速に広まったという側面があるかも知れません。しかし一方では、インターネットに依存してしまい離れられなくなるという、新たな心の病も発生しています。

 

現代に生きる私たちは、大切な自分の心とどうつき合って行ったらよいのでしょう。それをともに考え、ともに歩んでいく場を今年も続けて行きたいと思います。