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バラのつぼみ

 5月も近く、そろそろバラの季節ですね。近くの公園のバラのつぼみが開花を待っています。

 

ところでこの「バラのつぼみ」という言葉、映画ファンならピンと来るかもしれませんね。24歳の若きオーソン・ウェルズが監督、脚本、主演した映画「市民ケーン」で、主人公が死の間際につぶやく言葉です。この言葉の謎を解こうと、ある人物が主人公ケーンの関係者を尋ねたり、記録をたどったりする過程で、彼の人生が描写されていきます。

 

ケーンは新聞王から始まり大企業主として君臨し、巨大な富を持ち、広大な敷地に動物園まである王宮のような屋敷に住み、無数の美術品を収集するなど、けた外れの生活を送っていました。しかし家族、友人はすべて去り、孤独な生涯を終えます。

 

少年時代に偶然の出来事から金鉱山の権利書を手に入れたケーンは、青年となって新聞社を買収しマスコミ業に乗り出します。しかし彼は、真実を伝えるより売れるニュースを流し売り上げを拡大します。そして政治家に立候補しますが、愛人問題で落選、家族は去っていきます。そのオペラ歌手を夢見る愛人(二番目の妻)のためオペラハウスを建てますが、彼女は歌も演技も下手で、ケーンの親友の記者から酷評されます。ケーンはそれを認めようとせず、親友を解雇し、妻も去っていきます。

 

物質主義の虚しさを描いたとも言えそうなこの映画、ケーンがしみじみと自分の心を語るシーンはありません。「バラのつぼみ」というみずみずしい言葉が何を象徴しているのかは、いくつかのヒントは提示されるものの、私たち観客に委ねられます。

 

私がカウンセリングルームでお会いする皆様は、一様に自分で自分が思い通りにならないという困難を抱えて来られます。そして困難の原因は自分にあると思っています。困難な状況も原因も、そして「原因は我にあり」と判断するのも自分です。このようにすべてを抱え込んで孤独になっているのは、先の「市民ケーン」と共通するかもしれません。

 

このような困難な状況を「話す」ことで、少しずつ困難を「放す」ことができます。困難から解放される過程で、見失っていた自分が徐々に見えて来ます。もしかしたら、それが「バラのつぼみ」かもしれません。

 

ちなみに、現在のアメリカ大統領トランプ氏の好きな映画は「市民ケーン」だそうです。何故トランプ氏はこの映画を選んだのでしょう?これも「バラのつぼみ」と同じく謎です。